通信No.9 報文紹介①

2013年06月24日

【生態系と北方民族文化に対する温暖化の影響】

北海道網走市にある北海道立北方民族博物館は1991年2月に開館したが、それに先立つ設立構想検討過程にあった1986年から、外国人研究者を招待しながら「北方民族文化シンポジウム」を毎年開催してきた。
2013年秋には第27回目が開催された。そのテーマは、「環境変化と先住民の生業文化-海洋生態系における適応-」であった。シンポジウム冒頭に、北方圏をとりまく海洋生態系の特色を紹介する講演が予定され、その演者に私が指名された。
講演内容の全体は「第27回北方民族文化シンポジウム網走報告」の1-6ページ(2013)に公刊された。そのpdf版が本社のHPにも掲載されることになったので、その要旨を紹介させていただきたい。以下は公刊報文の英文要旨の和訳である。

北極海および亜寒帯海域は、冬期に水柱が対流するので、富栄養環境になっている。その結果、これらの海域における植物プランクトン生産(一次生産)は、冬期の日照低下が生産を一時的に制限するものの、温暖期には顕著に増進される。それゆえ、年間積算生産量は大きい。
太陽光が海底まで届き、海底から常に栄養塩が供給されている沿岸浅海域では、海底で生活する大型海藻や海草が繁茂する。しかし、その面積は海域全体のごく一部である。このことは、多くの海洋動物は、大型海藻や海草よりも、植物プランクトンから出発する食物連鎖に依存していることを意味する。したがって、冬期の対流による栄養塩供給が持つ意義は、本質的に重要だといわなければならない。
地球温暖化が冬期の対流に対して、確実に、かつ、マイナスに影響するにちがいなく、北方冷水域生態系を低生産系へと変えていくことになる。ほかの観点からも温暖化の影響がさまざまに論議されている。
本論文では、温暖化の影響と、その結果もたらされるであろう生態系の変化について考える。

北方冷水域の海洋生態系 ―生態系と北方民族文化に対する温暖化の影響―

Posted on June 24, 2013

生物生態研究所通信トップに戻る