通信No.4 海の言葉④

2012年09月28日

【NektonとBenthos】

多くの場合、水圏生物は、plankton(浮遊生物)、nekton(遊泳動物)、benthos(底棲生物)という三つの生態群に分けられる。湖沼学では、neuston(水表生物)を加えて4群にすることもある。
Neuston、nektonおよびbenthosは、それぞれギリシア語のνευστ?? (= swimming)、νηκτ?ν (= the swimming) およびβ?νθο? (= the depths) を語源としている。後2語は、ヘンゼンがplanktonという語を提唱したすぐあとに、同じくドイツのE. ヘッケルが造語したという。Ecology, ontogeny, phylogeny等々もヘッケルが発明した。
彼がたくさんの術語を造ったのはなぜだろう。

生物学史には、ヘッケルは、ダーウィン進化論の熱烈な擁護者であると同時に、しばしば無節操な科学者として登場する。
無節操とは、一元的に自論を主張するために、不都合な事実を無視したり、予察をあたかも事実のように書いたことをさす。そのせいで、彼の論理は極めて雄大で美しく、わかりやすい。そのような人がplanktonという新しい術語に接したとき、反射的に"では、それ以外の生物を何と呼べば良いのか"と感じたにちがいない。気持が落ち着かないのだ。

批判はあるが、ヘッケルは非常に広い視野から原理を見いだし、説得的に著述した。
われわれは、ときに彼を見習うべきではないか。海洋生物学分野にも雄大な仮説は少なくないが、その多くは欧米人のものだ。われわれにも、自分の専門や個別の興味から一歩離れ、それを海洋生態系の全体像の中に位置づけて俯瞰するという、包括的視点が必要ではないだろうか。

Posted on September 28, 2012

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