通信No.3 海の言葉③

2012年08月08日

【Plankton】

“Plankton”(プランクトン:浮遊生物)という語はドイツのV. ヘンゼンが提唱した。
語源のギリシア語“πλανκτος”の意味は“放浪者”とか“さまよい歩くこと”で、“惑星 planet”も同源だといわれる。英国のA. ハーディは、本来この語は“さまよい歩くように運命づけられたもの”という宿命を意味し、それゆえ浮遊生物にふさわしいといった。
ここで、オイディプス王の悲劇を思い出す人もあるだろう。
その昔、テーベの王子オイディプスは数奇な運命にもてあそばれ、それとは知らずに父を殺し、母を后として王位に就いた。後に事実を知り、大罪を悔やんで自ら盲目となり、生涯流浪し続けることになった。この生涯は生前から定められていたものであり、人為では避けようがない「運命」だった。

  古典ギリシア思想は、人々の生き様は神々がそれぞれに定めたものであり、人間は自分の意志をもってこれに逆らうことは許されず、できもしないのだと説いた。市民を救うべく最も困難な事績をなし終えたとき、オイディプスは、実は神が自分を罰していることに気がついた。罪の意識にもまして深い絶望感ゆえに、彼は生涯流浪するほかはなかったのだろう。
Πλανκτοςとはそのような語だったのではないだろうか。気ままに放浪する吟遊詩人をさすような、気楽な語ではなかったと思いたい。

《2018年7月12日に増補版を 通信No.32 , No.33 に掲載しました。》

Posted on August 8, 2012

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