アーティスティックなまちづくり

2025年11月26日

アーティスティックなまちづくりとは、彫像や噴水、橋梁やゲートウエーなどのモニュメントなどで記憶に残るまちを形成し居住性の向上や観光客の誘致を図る地域活性化の一つの方法と位置付けられる。 それらがあることにより訪れる人々を魅了し、心に残る印象を強く訴え人々に再訪するきっかけとなるものであり、また、それらのモニュメントの多くは王侯貴族や富裕な個人による寄付でパトロン(Patron)、或いはパトロネージュ(Patronage)という人々によってもたらされてきた。 欧米では裕福な個人や団体が個人の才能を育成するために資金、機会、場を提供し援助や後援をすることが根付いてきた。 これらの人々を日本では篤志家と呼んでいるが、社会や他社のために深い志と熱意をもって尽力する人を指すもので、単なる寄付者、支援者にとどまらず教育、医療、災害復興など幅広い分野で積極的に支援を行う人物に対しても使われている。

特に有名な話としては、ストラディバリウスのような何億円もする楽器を、才能のある若い芸術家に貸与する個人や財団がある。 これは決して自己満足や売名行為ではなく、社会貢献の一環として行われている無償の行為である。 このような活動はルネサンス期に始まったと言われており、芸術や文化活動が発展するためには不可欠な役割を担ってきた。 最近では、一部の公的施設や公的団体では、運営を安定させるために個人寄付会員制度(パトロネージュ・システム)と呼ぶケースもある。 かつてはパトロネージュといえば、個人や団体組織が多かったが、最近では自治体が個人や団体に代わって、その潤沢な税金を用いてまちの景観や街並みを整備し、公的施設である美術館(施設の建設、美術品購入、各種イベント企画)や音楽堂・スポーツ施設(組織化、維持管理、イベント運営、指揮者や芸術家の招聘)を企画・運営している。

マーライオンという伝統的なシンボルと、マリーナベイ・サンズやアートサイエンス・ミュージアムといった革新的な建築が共存することで、シンガポールの歴史と未来が調和する都市空間が形成されている。まちづくりが単なるインフラ整備ではなく、文化と創造性を育む舞台となっている。

まちづくりにおいても街路の景観整備の一環で、様々な彫刻や作庭によるアーティスティックなまちづくりが世界各地で行われている。 特に回遊式の公園や豪奢な個人邸宅では、世代が交代するたびに維持管理が困難となり、結果的に自治体へ寄付する場合があり、それが新たな社会資本のストックとなっている。 しかし、自治体においても宝の持ち腐れで、その活用方法が悩みの種となっている場合がある。

最近のアーティスティックなまちづくりの一つとして新たな手法が生み出されている。 それは、まちをテーマパーク化して街路を整備し、まちのファサード(建物の正面から見た外観のこと)を大衆好みに化粧し直し、購買意欲をかきたてるような機能や施設展開をおこなうものである。 その代表的なものがアメリカ合衆国フロリダビーチのアールデコ建築群である。 その次にまちづくりのコアとなったディストリクト再開発計画はボルチモアのインナーハーバー再開発構想、いわゆるウォーターフロント再開発である。 ウォーターフロント再開発と言っても、水辺や港湾の再開発という立地機能の再開発あるいは活性化(にぎわいづくり)を企画する手法が地域によって全く趣が違う。 ボルチモアはコンベンションホールを中核とする国際化の促進、ノスタルジーという世界各国の味覚の体験の場(レストランや小売店の展開)。 ボストン・ユニオンワーフは物流が停滞した港湾の再開発で、宅地と商業施設を港湾部に誘導し都市化を推進する。 また、マリーナの整備と水族館の立地による水辺のアクセシビリティ整備と人々の交流による地域の活性化である。 ウォーターフロント再開発といえども再開発の手法やテーマが地域によって全く異なる。つまり都市の外観だけを立替えても目的と手段を明確にしなければ絵に描いた餅になってしまうものである。

ボルチモアのウォーターフロントとショッピングセンター

日本のウォーターフロント都市の多くは、表面的なファサード整備に陥っていると思われる。ウォーターフロント再開発の事例に共通する主題はアーティスティックなまちづくりであろう。それは水産庁が政策課題としている「海業」にも言える課題でもある。 昔、港湾の再開発としてポートルネッサンスという計画があったが、膨大な資金を投入したが、成功したという話は聞こえてこなかった。 「海業」の主たる目的は漁港と漁港地域の活性化(集客性の向上とそれによる経済の向上を図りながら漁港空間の高度化を図ること)であり、アメリカや欧州の港湾都市の再開発から多くの学びがあると思われる。

(海辺のまちづくり研究所長 近藤健雄)

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