通信No.2 海の言葉②

2012年06月28日

【厄水(やくみず)】

特に親潮域で初夏に発生する珪藻類の濃密群集は、色は茶褐色だが、赤潮の一種である。漁具類にべったりぬるぬるとくっつくし、悪臭も放つので、漁業者から厄介がられてきた。しかし、これが発生したあとでカイアシ類やオキアミ類が増え、まもなく魚類が集まり、結果的に豊漁をもたらすことがあるので、「薬水」といわれることもあるとか。

ところで、A. ハーディのThe Open Sea という本には、Weedy waterとかDutchman’s baccy juiceという言葉が紹介されている。
これらの言葉はある種の不快感を示していて、語感としては厄水と驚くほどよく似ている。前者は海藻との関係を連想させるので、いかにも厄水現象を示す語だという感じがする。しかし、後者は“タバコ好きのオランダ野郎が吐いたつば”というような意味だと思われ、それが厄水現象を示す語になった理由は、にわかには思い至らない。
昔は、タバコといえば、噛みたばこや嗅ぎたばこが多く、それを愛好する人は、しょっちゅう褐色のつばを吐き捨てていたはずだ。船の上から海面にそれを吐き出せば、それがパッチ状に広がって厄水風になるのではないかと想像すると、なんとなく納得できる。それと、大航海時代を通じてあらわになったオランダとイギリスの対抗意識が底流にあったと考えると、けっこう面白い話ではないか。

《2018年7月12日に増補版を 通信No.31 に掲載しました。》

Posted on June 28, 2012

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